旅する精神 移動する身体

失われた街、旅を、移動する住まいを、ひとところに居続けられない(いつかは失われる)身体の記録。

店の外の画像しかない~京成立石「おでんや」

その店は、昭和の面影を色濃く残しているといわれる(決して私はそう思っていない)京成立石の中でも「呑んべ横丁」という、少し警戒心の強い人なら立ち入るのもためらわれるような一角にあった。

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京成立石「おでんや」

そこはカウンターと座卓が一つだけの小ぢんまりとした店だ。もちろん店主一人でやっている。だからたとえ満席でなくても、店主がさばききれないと思ったら平気で入店を断られる。

店に入っても丁寧なおもてなしがあるわけでもない。よほど頼む気がない態度でも取らない限りは店主から声がかかることもない。彼はたとえ客が私しかいない時でも、黙々と仕込みを続けていて、こちらが時宜を失して声をかけてしまうと、「ちょっと待ってください」とにべもなく拒絶されることさえある。

 

しかし、それでも私はこの町のお気に入りをいくつか挙げろと言われれば迷わずこの店を入れてしまう。おでんで言っても、立石を代表するおでんの名店「二毛作」(ここも発展的解消で屋号を継いだ「二毛作」と仲見世通りにそのまま店を構える「丸忠蒲鉾店」の二つに分かれてしまった)と十分競える力量を持った店だと思っている。

 

ちなみに二毛作はこちらのリンクのような店だ。京成立石にしてはすこしお洒落で、デート使いだって出来てしまうし値段も庶民的だ。

precious.jp

 

話を「おでんや」に戻そう。

この店は、名前の通りおでん屋なのだが、おでん以外の品もなかなか充実している。ちょっとしたビストロ感のあるメニューも置いている。軽く飲むだけならおでんを頼まないことすらできる。しかし、ここは「おでんや」だ。おでんは文句なくうまい。ほかのものだけを頼むアイデアは次回に置いといてほしい、と思う。

おでんを頼むと、三つ繋がった小皿にそれぞれ和辛子、甘味噌、そしてかんずりが盛られたものが供される。これが薬味になっていて、おでんの種ごとに好みの薬味を使って良い。気取った串揚げ屋のようにこの種にはこれ、と押し付けないところは有り難い。

おでんの種類はまあまあ豊富な部類だ。とはいえ変わり種はほとんどない。おでんツユは東京の店にしてはまあまあ濃い色をしているがそんなに醤油の味はしない。お酒の肴にするのにちょうどいい塩梅である。

お酒もビール、日本酒、焼酎、ウイスキーと手堅くそろえている。立石といえば焼酎ハイボールを想像される向きも多いし私もその一人だが、ここではあまりハイボールという気分にはならない。グイグイ飲むというよりは、時間をかけて供される食べ物のペースに合わせてゆっくり飲むのがベストなのだからだろう。

連れは多くても2人まで。(運が良ければ)遅めに入って看板間際までとりとめのない話をしながらゆっくり飲む。そんな感じが一番いい。店主は不愛想・・・というより店の欠くことのできない一部ではあるけれど、必要以上にコミットしない。大声を張り上げる必要もない。ほろ酔いになるころにはその雰囲気に包まれて心地よくなっていると思う。そういう店だ。

 

まじめな店舗紹介をご覧になりたい方は、下記リンクをご参照あれ。

izakayaisan.moo.jp

 

私も画像はいくつか撮ったこともあるのだが、訪れた回数にしては数がない。しかも古い携帯に入れたまま取り出せる見込みもあまりない。加えて呑んべ横丁は京成立石の再開発の中でもプライオリティの高い場所(火災時の危険を考えればやむを得ないのだが、それでもやはり残念ではある)にあるので、次行ったときに店がやってる保証もない。(移転したら移転したで良い店になるだろうが、あの雰囲気がそのまま残るとは思えない)なので、行きたいと思ったらわすれる前に、そしてあの一角が取り壊される前にぜひ訪れてほしい。